2012年02月01日

【百合小説】濡れる夜

濡れる夜

 なんとなく落ち込んで。
 そんな日に限って雨で。

 私は新宿二丁目のガールズバーで酒を引っかけてから、ふらふらとどしゃぶりの雨の中を歩いていた。
 疲れた。
 人生に、恋に、仕事に。
 ゆっくりと壁にもたれかかり、汚れた道端に座る。
 体が段々と冷たくなっていく。
 酒を飲んだ後に雨に濡れる。
 自分の命を賭けに使うロシアンルーレット。
 ここで友達に会えば私は助かる。
 誰にも会わなければ冷たくなって死ぬかもしれない。
 誰か助けてと思いながら、誰も助けてくれず静かに死にたいと望む。
 他人任せな卑怯な選択。卑怯な人生。
 でもそんなバッドエンドもいいじゃないか。誰にも会えない人生なんて。
 終わってしまえ。

「きったねぇ、ネコだな」

 そんな日に限って、ダチじゃなくってイケタチ様が目の前に立っている。夢じゃない。
「こいよ」
 名前も名乗らないイケタチ様に私は拾われた。
 仕事帰りの、勝負パンツじゃないずぶ濡れな日に幸福はやってくる。いやこれ、不幸なんじゃないの? 今日のパンツは……何を穿いてたっけ?
「立ってきちんと歩け。ほらこっち」
 腕を掴まれ無理矢理立たされ歩かされる。ぐいぐいと引っ張られて、どこかに向かわされる。
 足がもつれる。
 体が思っていた以上に冷たい。
 私の命はイケタチ様に救われた。

 スーツのままシャワーを浴びせられた。いくらなんでも最悪だ。
 バスタブに座りながら、イケタチ様を睨む。いやこの女、顔はいいけど性格は最低だろ。いくら雨に濡れてたって、普通、服ごと風呂に突っ込むか? 様とか抜き抜き。
 シティホテルのダブルを取ってもらった時は幸せ一杯の気持ちだったが、部屋に入ったらいきなり風呂へと突っ込まれた。そしてイケタチはちゃっかり服を脱いでバスローブを着ている。
 バスローブからこぼれ落ちそうな胸。これはもしや巨乳ってやつ? どうやってあのジャケットに収っていたのだろうか。普通はもっとこう、ジャケットが着崩れるような気がする。体にジャストフィットした服を着ているってことか。
「服のドロを落としたら、服を簡単に洗って脱げよ」
 あ、シャワーに突っ込まれたのは私が泥だらけだったからですか。さいですか。私は慌ててスーツに付いた泥を落とした。本当だ。ズボンも背中も泥だらけ。
 ジャケットやズボンを脱いで、ごしごし洗う。下着はユニクロのボクサーパンツだった。高校生のようなガキっぽさ。このパンツでイケタチ……私は彼女をちらっと見る……様と豪華なダブルルームに入ったのか。誰か今すぐ私を殺して。
 彼女は私から洗い終わったスーツを奪うとよく絞って伸ばして、干した。
 名前も知らない私達。そんな私のスーツを丁寧に干していく彼女。
 彼女の名前を知りたいと思った。
「ルイ……僕の名前はルイ」
 彼女は私を見て、くすっと笑う。
「ずぶ濡れネコが人語をしゃべった。俺は朝霧」
 えーと、おっぱいでっかいイケタチ様の一人称は俺ですか。そうですか。ピンヒールで蹴ってきそうなイメージなのに、俺。ちょっと驚いた。
「明日も仕事だ。さっさと脱いで体を洗え。エッチする時間がなくなるだろ?」
 ホテルに入ったんだからヤルことはそれだよな。私は少し興奮しながら、体を洗った。

 シャワーを浴び終わると、裸のまま手を引っ張られ、ベッドに放り投げられた。
 すっごいゴージャスなキングサイズのベッドが目の前にある。
 俯せになってベッドをさすっていると、イケタチ様……もとい朝霧が上から被さってくる。
 イヤミなぐらいの巨乳が背中に当たる。
「泥を落としたら意外と可愛いじゃないか。ちょっとスレンダー過ぎかな」
 ふと気付くと体が押さえ付けられていて動けない。
 うなじに舌が触れる。ぬるっとした感触。
「朝霧はシャワー浴びないのか?」
「後で浴びる。腕だけは肘まで洗ったから大丈夫」
「どこまで入れるつもりなんだよ」
「どこまで入れられたい?」
 朝霧がくくっと笑った。
「あんたタチなんだ」
「ああ。ルイは?」
「リバ」
「ふうん……リバには見えないけどな。運命に捨てられた仔猫ちゃん」
「あっ……」
 舌がうなじから、つつつっと背中へと流れる。
「朝霧の顔が見たい」
「お前に決定権はない。後で見せてやる。腰を上げろ」
 何故か朝霧の命令口調にゾクゾクする。
「あのさ、僕、どっちかっていうとタチ寄りなんですけど……」
 一応、朝霧にお断りを入れてみた。ナンパは自分から。リードも自分からの私が何故ここでリードされているのだろう。
「俺の前ではネコだから安心しろ。タチは命令されて腰を上げたりしないんだよ」
 朝霧は高く上げた私の腰をぱしっとひっぱたいた。
「っ……!」
「ん。感度はいいな。M度高しと」
「Mってなんだよ。誰がMだ」
「ケツ引っ叩かれて濡れる女の事だよ」
「あっ!」
 朝霧の指がヴァギナをつーっとなぞる。
 そして指を私の目の前に出した。てらてらと濡れる指。
「自分がMだって知らなかったのか? 人生の早くに気付いてラッキーだったな」
「知るかよ! ベッドではむしろSで通ってる」
「あはは、にゃーにゃー鳴く自称Sのネコか。可愛いな」
「自称ってなぁ! あっ……!」
 両胸を後ろから触れられる。と同時に朝霧の胸が背中に当たる。むにゅーっと。
 胸を揉まれる。胸が当たる。この挟まれた快感が私を襲う。もみむにゅ、もみむにゅ、もみむにゅ。
 女の胸に反応するレズビアンの悲しい性なのか。私の乳首は嫌って程、勃っていた。
「はぁ……はぁ……」
 自分の呼吸音の向こうに、彼女の呼吸音が聞こえる。興奮した息。速まる呼吸。女同士のセックス。とてもとてもとーっても久しぶりのセックス。
 人肌が恋しかった。前のカノジョの捨て台詞が脳裏に浮かぶ。
『このドブネズミ!』
 ははっ、本当にドブネズミみたいだった所を、イケタチ様に拾われましたよーっと。
 セックスしながらベッドサイドを見る。淡い間接照明が部屋を照らす。いつの間にかムーディーな空間に変わっていた。朝霧は見目だけじゃなくてセンスもいい。意識があまりなかったのだが、このホテルはどこなのだろう。広い部屋と大きなベッド。いつも泊まる安ホテルじゃない事だけは確かだ。
 カーテン全開の窓から満月が見える。冷たくて美しい。朝霧みたいだ。
「はうっ!」
「余所見する暇があるなら、もっと虐める」
 胸がぎゅううううっと搾られる。乳首がきゅうううぅっと抓られる。
 本当に、冷たい。
 痛い。
 そして気持ちいい。
 微妙な気持ちが交差する。
「あ、あっ、胸、が……っ!」
「イヤらしい娘だな。乳首がどんどん硬くなっていく。ほら、こんなに」
「ひゃああっん!」
 乳首の先端に爪が食い込む。
「かんじ……る!」
「やっぱりMだ」
「ち、違う! 僕はMなんかじゃない!」
「こんなに抓られて感じまくって腰を振ってて、Mじゃないとか言われてもね」
 朝霧が私の尻をパァンっと叩く。
「やだ!」
「濡れてるのに? 認めろよ、Mだって」
 パァン、パン、パパンと部屋に鳴り響く音。おと。
 羞恥心が刺激される。恥ずかしさのせいか、痛みのせいか、気持ち良いせいか、顔が火照る。
 ヴァギナの近くを叩かれる。
「ひゃん!」
「ヌレヌレだな。濡れネコはいやらしかったのか」
「いやらしくなんて……ない!」
「スパンキングでこんなに感じているのにか?」
 くすくすっと朝霧が笑う。
 お尻を撫でていた指先が、ゆっくりとヴァギナへ寄る。
 ごくりっと唾を飲み込んでしまう私。音が響いただろうか。恥ずかしい。
「おまたせ、仔猫ちゃん」
 指はヴァギナに少し、触れる。
 しかし濡れた襞(ひだ)を通過して、クリトリスを弾く。
「ひぃあん!」
 馬鹿みたいに感じてしまう。
 朝霧は恋人じゃないんだと頭に言い聞かせる。彼女が凄く格好良くても、所詮はワンナイトな相手。
 柔らかな枕。真っ白なシーツ。でも私は知っている。私はこんなホテルに泊まったりしない。もっと狭くて、安くて、壁は薄くて。声を出したら隣に聞こえる、いや隣の声も聞こえてくるようなホテルにしか泊まらない。
 格好良い人と付き合うには金が掛かり、そのような収入はないわけで。だから朝霧と寝るのは今夜だけの夢。毎回こんなホテルを割り勘していたら破産してしまう。
 好きになってはいけないと、自分の心に言い聞かせる。でも朝霧は的確に私の急所を狙ってくる。夢中になれと。セックスに。
 夢中になる恋の向こうになんて、何もない。これは人生の教訓。
 だから私は夢中になんて、ならない。
 後ろから触っていた指を離し、朝霧はつうっと腰に指を走らせクリトリスに触れた。胸を揉まれ、クリトリスを弄られ、体はぴったりと重なりながら私達は交じり合う。
「は……っ! あっ、はうっ、ああっ」
 心とは裏腹に体は朝霧のテクニックに反応し、声が出てしまう。恥ずかしい。
 ぬる、ぬる、ぬるるんと滑る指先。
 もにゅ、もにゅ、ぷるん、もにゅ、きゅい、きゅきゅっと胸を弄る手。
 背中に朝霧の胸が触れる。興奮した乳首が私の背中を弄ぶ。
 やだ、こんな体勢でイッちゃいそうだ。正常位が好きな筈なのに、お尻を高く上げたままイッちゃいそう。こんな体位でイクなんて初めてだ。
 にゅるにゅるにゅるにゅると、指が滑る。クリトリスを挟む二本の指が私を……!
「あ……ああっ!」
 胸をぱぁん! と叩かれた。
「イク時はイクと言え」
「イクッ! イク! イッちゃってる! もう……もう、もうダメ! イクッ!!」
 ダメとか止めてとかお願いとかいう言葉は全て無視された。
 私は強引に、そう強引に何度も何度もイカされた。
 イクッ! という自分の声が耳から離れない。恥ずかしい。
 でもきっとこの部屋は壁が厚くて、私の喘ぎ声が隣に聞こえない。
 幸せな時間。
 涙が出る程。

 でも夜が明ければ、また辛い毎日が待っている。

 ★

「始発の時間だね。もう行くよ。今日は本当にありがとう」
「こちらこそ楽しませてもらったよ。朝日の中の仔猫ちゃんっていうのもいいもんだな」
「それはこっちの台詞。朝霧、格好良いし……恋人はいるのか? っているよなぁ」
「いたらずぶ濡れの猫なんて拾わないよ」
 期待しちゃダメだ。
「そう」
「お前は?」
 期待しちゃダメ。
「前カノと別れてずいぶんになる。それから友達はいるけど、カノジョはいない」
「じゃあ拾ってやろうか、仔猫ちゃん」
「拾うって何を」
「ルイを」
「私を?」
「恋人になってやろうかって言ってるんだよ」
「どこまでも上から目線な女だな〜。……恋人になってやってもいいぜ」
「あははは、そんな台詞を初めて言われた。お前はやっぱり面白い」
 朝霧が笑いながら巨乳を押しつけてくる。やっぱりムカツク。
「それ……サイズいくつ?」
「ん? 胸か? Fカップ」
「でっか! 少し分けろよ」
「ルイはCカップだろ」
「なんで知ってるんだよ」
「ブラジャーで確認した。底上げカップ付きのC」
「うるせー。乳寄越せ」
「あはは、止めろ、触るな」
 私達はベッドの中でスマートフォンの名刺交換をした。
「始発だ。ルイ、また週末に会おう」
 朝霧が私の髪にキスをする。
 私は朝霧の唇にちゅっとキスをした。
 朝霧は少し考え、私の頭を掴むと唇を押しつけてきた。
「んーーーーーっ!!」
 舌が無理矢理割り込んでくる。激しすぎて興奮する。朝日が私達を見ているのに。

 一晩で落ちる恋なんてあるんだろうか。

 私は目を瞑り、激流のようなカノジョの愛欲を受け止めるのだった。

<終>


2012/09/26 つっちーへ お見舞いエロ小説。
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2010年03月24日

夢見女館

 ―― 新宿御苑の桜の樹の下に、夢見女館はあるのよ……。
 こう言って、母は息を引き取った。
 母の葬式や墓地の手続きを終え、広く、静かになった家を見回した時、私は、ふと、この言葉を思い出した。夢見女館。アドレス帳の一つも見付からなかった母だが、もしかしたら友人かなにかがその店を経営していたのかもしれない。部屋の時計は二十一時を指していた。私は咄嗟にコートを掴み、家を出た。
 地下鉄丸の内線新宿御苑前駅で私は下車し、新宿御苑へと向かった。私の勤め先は新宿にあったが、入社して以来十年間、私は一度も新宿御苑に来たことが無かった。土曜日の新宿周辺とは思えないほど辺りは暗く、人通りが無かった。私は新宿御苑の安っぽい門をくぐった。
 門を入るとすぐに、白いスーツを着た壮年の女性に私は出会った。女性は月明かりに照らされた大きな桜の樹を見上げていた。桜には枝しか無かったが、彼女のスーツは桜色に彩られていた。私は何故か、スーツが桜色に染まっているのは月明かりが桜の枝を照らしたせいだろう、と意味付けた。
「すみません、お尋ねします。この辺りに『夢見女館』というお店はございませんか。」
「夢見女館でしたら …… ほら、あの樹の下です。」
「ありがとうございます。」
 私は女性に礼をして、彼女が指した樹の下の明かりの方へと向かった。
 古い煉瓦造りの建物には『夢見女館』という木の看板が掛かっていた。カウ・ベルの下がった扉を開くと、赤に近いピンクのロングドレスを着た女性が立っていた。いらっしゃいませ、と言われ、初めて私はこの美しい女性が、夢見女館の店員である事に気付いた。きっちりと化粧されている顔、下着を着けていないのに形の崩れていない胸、嘘みたいにくびれたウェスト、同性である私が頬を染めてしまいそうな容姿であった(彼女が美しいから? それども自分が彼女に劣っているから?)。
「貴女はどんな夢を見に来たのかしら …… ああ、もしかして、瑞江さんの娘さん?」
「はい、幸子(ゆきこ)といいます。先日、母は他界しまして、臨終間際にこの店の事を言ってましたので …… 母の知り合いがいればと思いまして。」
「瑞江さんはよくこの店にいらしていた、常連様でしたの。」
 私達は通路奥にあったドアをくぐった。店内には四、五人の女性がソファーに座って、各々、店員と思われる女性と親密に話し合っていた。どの女性も壮年以上の方ばかりで、中には若くは見えるが、八十近い女性もいた。
 私はふと、サイフの中身が気になった。あまり出掛けていると思えない母が通っていた店だから、と油断して、たいした金額を私は持っていなかった。私は店員に、平均、どのくらい値段が掛かるのかと聞いた。
「そうですわね …… 十万。うふふ、嘘ですわ。基本料金五千円でおしまい。私達がお客様に一人ずつ付き添い、お話しを聞いて、カクテル《夢見女館》を一杯のみお出しします。メニューはそれだけ。ただし、このお店の事を男性にお話ししたら、私達の事をお忘れになってしまいますから気を付けて下さいましね。」
 忘れてしまう、というのはどういう事なのだろう。私は疑問に思ったが、この店の暖かい雰囲気を壊したくなかったので、決して言わない、と彼女に伝えた。
 私達はカウンターに座った。バーテンがかわいらしいデザインのグラスに、竹の筒に保存されていた液体を注いで、私の前に出した。
「私の名前はサチ。私達夢見女館の者は、女性に夢を与えるのを生業としております。」
 私は出された紫色のカクテル「夢見女館」を口に含んだ。口に入ると液体はねばねばし、匂いがきつく、何かを思い出すような喉ごしを感じた。

  †

 頭がだるい。なんて強いカクテルだったのかしら。あら、ここはどこ? 横浜駅って、なんで私、こんな所へ …… 私、私……。
 私はふらふらと、引き寄せられるように東海道線に乗り込んだ。
 仕事に行かなきゃ。なんでこの車両はこんなに女性が多いのかしら。そう、私の前に立つこの人なんか、とってもいい匂い。臙脂色のパンツスーツ、細い首筋、私よりちょっと高い身長、広い肩幅、扉の窓に映った顔が色っぽくって、ワインレッドのルージュがとても似合っているわ。
 電車ががくんと揺れ、私は彼女の体をドアへと押しやった。私は右手で臙脂色のパンツのファスナーの辺りに触れていた。地獄のような混雑の中で、腕がどかせられる訳もなく、私は彼女の恥骨を手の甲に感じながら、電車に揺られていた。
 もし、この手で彼女の性器に触れたら、この人はどう思うのかしら。
 私は幼い頃から女性にいたずらする、という行為でオナニーを楽しんでいた。夢の中の女性達に私は愛され、私がいたずらすることで、夢の中の女性も喜んでいた。そんなに調子よくいくわけがない、と夢から醒めた私は思ったものだが、これは、それとは違う。なにせ現実なのだから。
 女が女にいたずらする。
 もし、会社などにばれたら即刻クビになるだろう。犯罪者とレズビアンのレッテルを貼られ、私は会社から追い出されるのだろう。私はそれを考えると背筋が寒くなった。
 しかし、しかし、しかし。
 私の欲望は罪悪感よりも膨らんでいった。私は自分の性器にしか触れたことがなかったので、彼女の性器が上手く想像出来なかった。臍から下につるつるした腹部があって、ふわふわした子犬のような毛が生えていて、毛に隠れて襞があり、そこに大事そうにクリトリスが眠っている。襞の中にはきっと温かい汁を出す穴が、私の指を待っているのだろう。
 そんな事はあるはずがない。
 私は彼女と重なりあっていた。私は自分の鼓動や体の震えが、彼女に伝わってしまうのではないか、と思った。電車が揺れると益々私達は交じりあい、足を絡ませていた。彼女は股を開き、そこに私の右手が当たっていた。私は手をぶるぶると震わせていた。他人の性器に触れてみたい。その考えで私の頭は一杯になった。
 私は右手首を曲げ、手の甲で彼女の股に触れた。私は手首をゆっくり動かし、彼女の性器の上を擦った。私と彼女の顔は隣同士にくっつき合っていたが、彼女は私の方を見たり、慌てるそぶりを見せなかった。彼女はただじっと、私とは逆の方向を見詰めていた。私の呼吸はしだいに荒くなっていった。彼女はどうもゆっくりと呼吸を整えている様子だった。
 私は何度も右手の甲で彼女の股に触れた。そして手の平を返し、中指でそっと、彼女の性器の上をなぞった。もう一度、中指でなぞった。今度は中指と人差し指でなぞった。奥から手前に、手前から奥に、私は彼女の性器の上を何度も弄った。彼女は私の方を一向に見ず、抵抗するそぶりも見せなかった。
 あっ。
 私は心の中で驚いた。彼女の股が次第に熱くなっていったのだ。彼女は私の指に感じているのだ。何故、この人は私を責めないのだ。早く、私の行為を責めて欲しい。私は自分で制御出来ない程、興奮していた。
 私達は電車が揺れる度に、強く重なり合っていった。私の右手は彼女のパンツの上から性器に触れていた。満員電車の中、私は自分の体温が上がるのを感じた。私は電車が揺れる度に少しづつ左手を挙げていった。そして私の胸と重なり合う、彼女のふくよかな胸に触れた。白いブラウスは、満員電車の中で温まっていた。私は大胆にも、彼女のブラウスのボタンを一つだけ外し、ブラジャーのフロントホックを外し、直接、胸に触れた。それと同時にパンツのファスナーに手を掛けた。
 もうそろそろ電車は川崎駅に着く頃だった。私は素早く彼女のショーツの中へと手を忍ばせ、繁みの向こうへと指をはわせた。彼女の繁みは思ったよりゴワゴワしていた。私は指をクリトリスへと当てた。クリトリスの皮は剥かれ、さくらんぼの種のような突起物が、繁みの中に隠れていた。私は急いで、またそおっと、その奥にある窪みを探した。襞を人差し指と薬指で開き、中指でふにふにした穴に触れると、温かい体液が溢れ出てきた。
 こんなに濡れるなんて……。信じられないわ。
 私は彼女程、濡れた事は無かった。私は指に彼女の体液を絡ませ、手前に指を動かした。私が指を、彼女の体内と、突起物の上を行ったり来りさせると、彼女は股の筋肉に力を込めた。その為、私は指を彼女の肉に挟まれた。私は、ああ、指が愛撫されている、と思った。彼女は股を閉じようとしたが、私の足に邪魔され、私の手を止める事が出来なかった。彼女の手はやや上の方へ挙がっており、満員電車の中、その手を下げる事は出来なかった(いや、少しづづならば出来たのだろうが、彼女は下ろす事をしなかった)。私の濡れた指が突起物に触れる度、彼女は体を強張らせた。
 一方、私は左手で彼女の胸を弄った。私の指の動きは、私の体でも感じられた。私は両腕で彼女の体を隠すようにして、彼女の胸に触れていた。混んでいるので、それ程、左手は動かせなかった。私は中指と薬指で彼女の乳首を挟み、指をこすらせた。また、中指で乳首を胸の膨らみの中へと沈ませたりした。
 あっ、滑りが良くなってきた。
 私は右手で、河の様な彼女の性器に触れ、上ったり下ったりしていた。次第に彼女の体は小刻みに震え、吐息が聞こえてくるようになった。
 その時、駅到着のアナウンスが車内に響き渡った。私は慌てて手を引っ込めて、彼女のファスナー、ホック、ボタンを元どおりにした。
 アナウンスで私の情欲は一気に冷め、恐怖心だけが頭を支配した。私は彼女の顔を少しだけ覗き込んだ。改めて見ると、誰かを思い出すような顔付きだった。彼女は私の方は見ず、ただ潤んだ瞳で宙を見詰めていた。
 私は罪悪感にさいなまれていた。彼女は何故、大声を出さなかったのだろう。それともこれから私の腕を*んで、駅員に引き渡すつもりなのかしら。いつも夢見ていたファンタジーが、これ程の恐怖と絶望で終わるなんて……。私は唇を噛んだ。それと同時に車両の扉が開かれた。しかし降りる人は少なく、それ以上の人達が車内になだれ込んできた。
 彼女は私を駅員に引き渡さなかった。私は社会的信用を失う事へ恐怖を感じていたが、彼女の体の熱さを忘れられず、同じ場所に佇んでいた。彼女もまた、私の腕の中から出て行く事をしなかった。
 電車が発車してすぐに、私は再び彼女のファスナーを下ろし、ボタンとホックを外した。彼女はさっきよりもやや俯き加減で立っていた。
 ああ、本当に女の体内って熱いんだ。私は右手の人差し指と中指で、彼女の体内に潜り込みながらそう思った。親指を使って彼女の突起物を刺激しながら、指を穴から出したり入れたりしていた。私は頭の一方で、もう確実に犯罪者の仲間入りだ、と思い、会社を首になるとどういう不利益があるのか考えた。家賃も公共料金も払えなくなる。住所が無くなり ……? その後はどうやって暮らせばよいのだろう。私の想像力ではそこまでが限界だった。
 彼女の体は、私に社会的信用を失ってもいいと思わせる程、魅力的だった。私の行動は明らかに狂っていた(同性に興奮する事が? それとも電車の中でいたずらするという行為が?)。
 私は狂っている。私ハ彼女ニ発情スル。
 私は狂っている。私ハ彼女ノ性器ニ触レ、性的興奮ヲ覚エテイル。
 私は狂っている。私ハ満員電車ノ中デ、彼女ニイタズラシテイル。
 私は狂っている。私ハ犯罪者ダ。
 私は狂っている。私は狂っている。私は狂っている。私は狂っている。私は……。
 その時、私の右手をとても冷たい手が*んだ。
 私は息を詰まらせた。

  †

「どうかなさいました? 顔色がすぐれませんわ。」
 瞬きをすると、私はうす暗い店のカウンター席にいた。私は右手の上に乗っている氷のように冷たい手を払いのけた。その手がサチのものだと分かると、私は体を激しく震わせた。私は店内を見渡し、時計を見た。十一時五分。一体、いつ私はこの店に来たのだろうか。もしかしてもう、警察に追われる身で、この店に匿ってもらっているのではないだろうか。私は下着が冷たく感じる程、冷や汗をかいた。
「ご、御免なさい。私……。」
「どうなさいましたの? 悪夢でも見てらしたの?」
 確かに悪夢 ……、いや、現実だ。手の感触、体の感触、夢の筈がない。私はもう一度時計を見た。時計の日付は、初めて夢見女館に来た夜を指していた。
「私、何か口走っていませんでした?」
「いいえ。」
 本当に夢だったのだろうか。私は心の中にある恥ずかしい欲望をサチに見られたのではないかと戸惑った。欲望。そうだ、私は女の人にしか感じない体だったのだ。何故、忘れてしまっていたのだろう。仕事に追われているうちに、一人で生きようと思った理由を忘れてしまっていただなんて。
「私、今夜はこれで失礼します。」
「またいらして下さいね。」
 サチは私にコートを着させた。私は会計を済ませた。サチは小声で呪文のように囁いた。
「決して男性に言ってはいけません。」
「ええ、分かっています。」
 サチは廊下で、私にキスをした。私はサチの唾を飲んだ。サチの唾はカクテル《夢見女館》の味に似ていた。
 夢見女館の外に出ると、とても寒く、改めて電車の中の行為が夢だったと、私は確信したのだった。夢の中のホームはちっとも寒くなかったからだ。そういえばショルダーバックすら持っていなかった。車内に女性が多い、というのもあり得なかった。
 あっ。
 新宿御苑の門の近くまで来て、臙脂色のスーツを着た女性が母の若い頃の姿にそっくりだった事を、私は思い出すのだった。 

<終>
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posted by Fujima at 14:59| Comment(0) | 百合 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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